ROIC(投下資本利益率)とは

株の用語
2025.09.15
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目次

ROIC(Return on Invested Capital/投下資本利益率)は、企業が事業に投じた資本からどれだけ効率的に利益(税引後営業利益)を生み出しているかを示す中核的な経営指標です。株主や債権者から預かった資金を、どの程度価値創造につなげられているかを測るため、資本コスト(WACC)と並べて用いると投資の良し悪しが明確になります。感覚的に「稼ぐ力」を示すROEやROAに比べ、ROICは事業活動に使われている資本だけを分母に取るため、経営の打ち手に直結しやすいのが特徴です。

本記事では、ROICの定義と計算式、実務における算定ポイント、WACCとの関係や目安、他の指標との違い、そして改善のための具体策と運用のコツまで、投資家・経営者・事業責任者のいずれにも役立つ観点で体系的に解説します。

定義と計算式:ROICの基本

ROICは一般に「NOPAT(税引後営業利益)÷ 投下資本(Invested Capital)」で定義されます。ここで重要なのは、分子と分母を「事業ベース」で揃えることです。財務活動や一過性の損益を混ぜないことで、事業そのものの資本効率を正しく映し出します。

基本式と各構成要素

基本式は次のように表せます。ROIC = NOPAT ÷ 投下資本。NOPATは「営業利益 ×(1 − 実効税率)」をベースに、特別損益や金融収支の影響を排除して事業の実力値に近づけます。一方、投下資本は「運転資本(売上債権+棚卸資産−仕入債務)+固定資本(有形・無形資産など)− 過剰現金・非事業資産」で算出するのが典型です。

運転資本と固定資本の捉え方
  • 運転資本:営業活動を回すために常時必要な資金。回転率の改善で少資本化が可能。
  • 固定資本:生産設備や無形資産など長期にわたり収益を生む資産。資本集約度の要。
  • 非事業資産・過剰現金:本業に必要ない資産は分母から除外し、純粋な事業効率を測定。

実務では「平均投下資本(期首と期末の平均など)」を使うのが一般的です。成長企業や再編中の企業では期中の資本が大きく変動するため、平均化によって時点依存のブレを緩和します。

NOPATと投下資本の実務計上(IFRS・JGAAPの留意点)

ROICを意思決定や評価に使うには、会計基準や一時要因を踏まえた「調整」が不可欠です。見かけの高低に引きずられず、継続的な事業成果を映すように分子と分母を整えます。

分子(NOPAT)の代表的な調整

  • 金融収益・費用の除外:本業外の要素を取り除き、営業利益ベースへ揃える。
  • 一過性項目の調整:事業売却益、災害損失、構造改革費用などを明確化し、必要に応じ平準化。
  • のれん償却の扱い:IFRSでは償却なし、日本基準では償却あり。比較可能性を意識して開示・補助指標を用意。
  • 研究開発費:将来効果が大きい場合、一定の資本化・償却による管理KPIを補助的に併用する実務もある。
  • 実効税率:恒常税率を用いた調整で、税効果のノイズを低減。

分母(投下資本)の代表的な調整

  • IFRS16リース:使用権資産・リース負債を投下資本に含め、賃借形態の差を中立化。
  • 過剰現金・投資有価証券:本業に不要な資産は除外し、事業資本だけを測定。
  • 退職給付負債:性質を見極め、事業運営に不可避な長期負債は資本の一部として扱う判断も。
  • 棚卸資産の評価:在庫評価の一時的な変動(インフレ等)による分母・分子の歪みを注記で補足。
  • 平均投下資本:期首期末の単純平均、または月次平均でボラティリティを抑制。

連結ベースでの算定が原則ですが、投資家説明では「会社全体」「事業セグメント」「国・製品ライン」など多層でのROICを併記し、集計ルール(内部取引価格、在庫評価、共通費配賦)を明示するのが望ましい運用です。

ROICの読み解き方:目安・WACC・スプレッド

ROICの絶対水準は業種の資本集約度によって大きく異なります。資産の重い製造・インフラでは低め、ソフトウェア・プラットフォームのような無形資産主体では高めになりやすいのが一般的です。したがって単純な横比較ではなく、同業他社の中央値や自社の資本コスト(WACC)と比べることで意味が出ます。

価値創造の条件:ROICとWACCの関係

価値創造は「ROIC > WACC」で生じます。差分(スプレッド)はEVA(Economic Value Added)に直結し、EVA =(ROIC − WACC)× 投下資本 で可視化できます。スプレッドが正なら、成長投資は理論的に企業価値を押し上げ、負なら規模拡大は価値毀損になり得ます。

成長と再投資率の視点
  • 再投資率(Reinvestment Rate):NOPATに対してどれだけを再投資するか。
  • 持続的成長率:成長率 g = ROIC × 再投資率。高ROIC企業は少ない投資で高い成長を実現。
  • ミックスの重要性:ROICが低い案件での拡大型投資は成長しても価値を減らす可能性。

また、ROICのトレンドは市場の評価倍率(EV/Invested CapitalやPBR)にも波及します。安定的な高ROICの継続可能性(耐久性)と成長余地の組み合わせが、長期的な株主価値の鍵となります。

他指標との違いと補完関係(ROE・ROA・FCFなど)

経営では単一指標の最適化が弊害を招くことがあります。ROICを中核に据えつつ、他の重要指標と組み合わせて多面的に意思決定を行うのが健全です。

ROICとROE・ROAの違い

  • ROE(自己資本利益率):株主資本に対する利益。レバレッジで押し上げやすく、資本構成の影響を強く受ける。
  • ROA(総資産利益率):総資産に対する利益。非事業資産も分母に含みがちで、事業効率の把握には粗い。
  • ROIC:事業に使う資本だけを分母に取り、レバレッジの影響を分離。事業の「純」効率に近い。

FCF、IRR、NPVとの関係

  • FCF(フリーキャッシュフロー):NOPATから設備投資・運転資本増減を差し引く現金創出力。ROICは効率、FCFは現金の実量を示す。
  • IRR(内部収益率)・NPV(正味現在価値):個別案件の評価指標。案件レベルのIRRが会社のWACCを上回るかで投資可否を判断。
  • 補完関係:ROICでポートフォリオ全体の資本効率を管理しつつ、個別投資はIRR・NPV・回収期間で精緻に評価。

さらに、CFROIやEVAなどの価値指標は、ROICと同じ思想(資本効率と資本コストの対比)に立脚しています。社内KPIとしては、ROICを上位に置き、下位に売価・原価・在庫・稼働率・与信・購買条件などのドライバーをツリーで紐づけると実行に落ちます。

改善アクションと運用:経営・投資判断への落とし込み

ROICの改善は、分子(NOPATを増やす)と分母(投下資本を減らす/回転させる)の両輪で進めます。重要なのは、短期的なコスト削減のみに偏らず、持続的な価格決定力やビジネスモデルの強化へつなげることです。

分子を高める実務アクション

  • 価格・ミックス最適化:値上げの受容性分析、顧客・製品別の貢献度管理、割引規律の徹底。
  • 原価改善:設計変更、歩留まり改善、サプライヤ再編、ローカル調達、エネルギー効率化。
  • 稼働率とスループット:制約工程の特定、段取り短縮、OEE改善、デジタルによる品質予測。
  • サブスクリプション化・アフター市場:継続課金や高粗利サービスで収益の質を改善。

分母を引き締める実務アクション

  • 在庫回転の向上:需要予測高度化、S&OP、SKU整理、最適ロット、VMI導入。
  • 与信・回収:取引条件の見直し、ファクタリングの活用、請求・入金プロセスの自動化。
  • 支払条件:サプライヤとの交渉、動的ディスカウント、調達の集約でキャッシュコンバージョンを改善。
  • CAPEX規律:投資の段階ゲート、プレ・モルタム、ポスト導入の実績検証で非効率投資を抑止。
  • アセットライト化:外部製造、共有設備、リース活用、非中核資産の売却・分離。

セグメント管理とKPI設計

全社ROICは平均値にすぎません。実務では事業・地域・顧客・製品ラインごとにROIC(ないしは近似のユニットエコノミクス)を可視化し、高ROIC領域へ資本を集中させます。KPIは、上位にROIC、下位に価格・数量・原価・在庫・与信・稼働・CAPEX回収などのドライバーをツリーで接続し、担当者が自分の行動に翻訳できる粒度に落とし込みます。

投資判断への組み込み
  • ハードルレート:少なくともWACCを上回るROIC/IRRを要求し、リスクに応じて上乗せ。
  • シナリオと感度分析:価格・数量・為替・原材料・歩留まりの感度を事前に評価。
  • ポスト投資レビュー:立上げ後にROICの達成状況を検証し、学習を次案件へ反映。
  • ポートフォリオ最適化:低ROIC事業の再構築・提携・撤退、資本の再配分を機動的に実行。

簡易ケーススタディ(架空例)

ある製造業A社は、ROIC 6%・WACC 7%で価値毀損状態でした。価格ミックス+1%、原価−2%、在庫回転+0.5回、CAPEXの段階投資で分母抑制を行った結果、NOPATが増加し、投下資本は適正化。1年後にはROIC 9%、2年後に10.5%、WACCは7%据え置きでプラスのスプレッドが定着しました。並行して非中核資産を売却し、資本を高ROICのアフター市場へ再配分。総還元方針はFCF創出力に沿って見直され、株主価値と成長の両立が進みました。

よくある落とし穴と回避策

  • 短期志向:投下資本を削りすぎて将来の成長余地を毀損。R&Dや人材育成は中長期で評価。
  • 会計ドリブン:定義の恣意性で数字を良く見せるだけでは現場が動かない。ドライバーKPIで行動に接続。
  • 景気循環の影響:一時的な需要増でROICが上振れ。平準化や景気調整後の水準で判断。
  • 業種差の無視:資本集約度の違いを無視した横比較は誤解を招く。同業中央値とWACCを基準に。
  • 非事業資産の混入:余剰現金や投資有価証券が分母を膨らませ、事業効率が見えなくなる。

投資家コミュニケーションでは、ROICの定義、調整内容、分解(NOPAT、運転資本、固定資本)、WACC、スプレッド、セグメント別の乖離と改善計画を一貫して開示することが信頼構築に直結します。内部では報酬制度をROICやEVAと連動させ、短期利益の最大化ではなく、資本効率と成長の両立を促すデザインが重要です。

まとめ:ROICを経営の共通言語に

ROICは「どこに資本を置けば、最小の投資で最大の価値を生めるか」を示す羅針盤です。定義の透明性、分子・分母の妥当な調整、WACCとの対比、セグメント別の可視化、具体的な改善ドライバーへの分解、投資後レビューまでの一連の運用ができれば、数字は現場の行動に変わります。単なるスコアではなく、戦略・資本配分・現場KPIをつなぐ「共通言語」としてROICを使い切ることが、持続的な企業価値向上への近道です。

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