株券不発行制度とは?会社実務が楽になる仕組みを解説

株の用語
2025.09.15
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目次

株券不発行制度は、会社が株券(紙の証書)を作らず、株主の権利や株式の移転を紙ではなく名簿の管理で完結させる仕組みです。かつては株券が当たり前でしたが、現在の日本では「原則として株券は作らない」が基本です。特に中小企業やスタートアップでは、管理負担とリスクを減らせるため、導入・維持のメリットが大きい制度として定着しています。

この記事では、株券不発行制度の背景、仕組み、メリット・デメリット、導入ステップ、似た制度との違いまでを、専門用語をできるだけ避けて丁寧に解説します。初めての方でも流れと全体像がつかめるよう、実務での注意点や活用例もあわせて紹介します。

なお、上場企業は株式の電子化(振替制度)がすでに徹底されているため、事実上、紙の株券は使われていません。非上場の中小企業にとっては、「いま定款がどうなっているか」「株主名簿をどう運用するか」がポイントになります。

株券不発行制度の基本概念と背景

株券不発行制度とは、会社が株券を発行しないことを定款で定め、その代わりに株主名簿できちんと株主を管理するしくみです。今日では、これが標準的な形になっています。紙の株券がないため、紛失・盗難・偽造などの物理的リスクから解放され、事務負担も減ります。

歴史の流れ(なぜ「紙」から「名簿」へ移ったのか)

昔は、株式の受け渡しといえば、裏書きした株券を相手に手渡すのが一般的でした。しかし、会社の数や取引の規模が増えるにつれ、紙の管理が大きなコストとリスクになりました。そこで、法律の整備が進み、会社が株券を作らない選択をしやすくなり、名簿での管理が中心になりました。さらに、上場株式は電子化が進み、証券会社や保振機関の口座残高で権利が動くようになっています。

  • 従来:株券中心(裏書き+現物の受け渡しが基本)
  • 現在:原則、株券は作らない(名簿で管理)
  • 上場株式:完全に電子化(紙の株券は使わない)

このように、紙からデジタル・名簿への移行は、コスト削減と安全性向上の流れのなかで自然に進みました。非上場企業でも、最初から株券不発行で設立するケースがほとんどです。

仕組みと法律上の位置づけ

株券不発行制度では、株主の権利は「株主名簿にどう記録されているか」で判断します。誰が株主か、どれだけ持っているかを、会社が管理する名簿で明確にし、配当や議決権もその名簿にもとづいて処理します。紙の証明書を用いないため、名簿の正確性がすべての土台です。

株式の移転(名義書換)が有効になるタイミング

  • 当事者間の合意:売買や贈与などの契約で権利が動きます。紙の株券がないため、裏書きや現物の受け渡しは不要です。
  • 会社に対して効力が生じるとき:株主名簿に記載・記録された時点で、会社は新しい株主を株主として扱います。議決権や配当の支払い先も名簿基準です。
  • 実務の要点:株式を譲り受けた人は、速やかに会社へ名義書換の申請を行い、会社は社内ルールに沿って審査・記録します。

株主名簿と基準日の考え方

株主名簿は「いつの時点での株主に権利を与えるか」を決める基準日とセットで運用します。例えば、配当や株主総会の議決権を確定するため、会社は「この日現在の名簿に載っている人」を対象とします。基準日を公告などで周知し、名簿と突き合わせることで、誰に権利があるかをシンプルに判断できます。

上場企業の振替制度との関係

上場株式は保管振替機構(いわゆる保振、JASDEC)を通じて完全に電子化されています。投資家は証券会社の口座残高で株式を保有し、権利の移転も電子的に行われます。この仕組みは、非上場企業の「株券不発行」と発想が似ていますが、運用の担い手が異なります。非上場企業は会社自身(または名簿管理人)が名簿を直接管理するのに対し、上場株式は振替機関の口座残高が基礎です。

メリットとデメリット(実務の目線でチェック)

株券不発行制度には多くの利点がある一方、名簿管理が「唯一の証拠」になるため、運用に注意が必要です。ポイントを簡潔に整理します。

主なメリット

  • 紛失・盗難リスクの解消:紙の株券を保管・配送する必要がなくなり、事故の不安がなくなります。
  • コスト削減:印刷費、製本費、郵送費、保管スペース、再発行費用などをまとめて削減できます。
  • 手続きの迅速化:譲渡や相続の処理が、名義書換と書面確認だけで完了。M&Aや持株会、ストックオプションにも相性が良いです。
  • 内部統制の強化:名簿・帳票・社内承認フローに一本化でき、監査やデューデリジェンスでも説明しやすくなります。
  • コンプライアンス対応が容易:基準日や株主総会の管理がシンプルになり、通知も漏れにくくなります。

考えられるデメリットと注意点

  • 名簿の精度がすべて:誤記・更新漏れがあると配当や議決権の対象を誤るおそれ。二重譲渡の防止や重複記載にも注意が必要です。
  • 証拠性の確保が課題:紙の株券がないため、取引の記録(契約書、譲渡承認書、申請書、本人確認資料)を丁寧に残す必要があります。
  • 社内運用の設計が必要:名義書換の受付窓口、審査基準、締切、基準日の公表方法など、実務ルールを明確にする手間が生じます。
  • 投資家の慣れの問題:一部の投資家は「紙の証明書」を好む場合があります。制度の説明や開示で不安を解消しましょう。

実務では、テンプレート書式の整備、責任者の明確化、定期点検(四半期ごとの名簿突合など)でほとんどのリスクをコントロールできます。紙の株券による安全より、運用ルールの透明性と記録の確かさが重要です。

導入手順と実務フロー(中小企業のための道しるべ)

まずは定款と現状の確認から

すでに設立時から株券不発行としている会社は、改めて手続きをする必要はありません。一方、過去に「株券を発行する」と定款で定め、実際に株券を作って配布した会社は、定款変更と移行の手続きが必要です。手元や金庫に株券が残っていないかも併せて確認しましょう。

株券不発行へ切り替えるステップ

  • ステップ1:方針決定とスケジュール案の作成。いつを基準日にするか、名簿管理体制をどうするかを整理します。
  • ステップ2:株主総会の特別決議で定款を変更し、「当会社は株券を発行しない」旨を明記します。議事録も適切に作成・保存します。
  • ステップ3:移行期間の公告・通知。過去に発行した株券があれば、一定の提出期間を設けて提出を促し、個別通知も行います。
  • ステップ4:提出された株券の回収・無効化。受付簿を付け、本人確認と持株数を照合し、名簿へ正しく反映します。
  • ステップ5:提出期間経過後の処理。なお残る未提出株券については、公告で無効化の手順を進め、名簿の整合を取ります。
  • ステップ6:社内規程・書式の整備。名義書換申請書、譲渡承認書、本人確認の基準、受付期限などを文書化します。
  • ステップ7:周知と運用開始。株主・役職員・顧問先に周知し、名義書換の受付を平常運転に移します。

名簿管理のコツ(小さく始めて確実に回す)

  • 株主名簿ソフトやクラウドの活用:小規模でも入力ミス防止や履歴管理が楽になります。
  • 基準日の年次カレンダー化:配当、総会、株式分割の予定と紐づけて計画的に運用します。
  • 本人確認と証跡保存の徹底:身分証の写し、署名または押印、契約書の保存をセットで。電子署名の活用も有効です。
  • 承認プロセスの二重化:代表者と管理責任者のダブルチェックで誤りを防止します。
  • 外部専門家のスポット利用:弁護士・司法書士・税理士にレビューを依頼し、初期の制度設計を固めます。
スケジュールの目安

定款変更の準備から実運用まで、無理のない計画でおおむね1〜3カ月程度が一般的です。既発行の株券の回収状況によっては、公告期間や個別連絡を長めに取り、株主とのコミュニケーションを優先するのが安心です。

費用の考え方

株主総会の開催や公告費、名簿管理のソフト導入費、専門家の報酬などが主なコストです。一方で、今後の印刷・保管・郵送・再発行といったランニングコストが不要になり、総合的にはコストダウンになるケースが多く見られます。

似た制度との違いと活用シーン(上手に使い分ける)

振替制度(上場株式の電子化)との違い

振替制度は、保振機関や証券会社の口座残高で株式を管理する仕組みで、上場企業に必須です。投資家は証券口座の残高を見れば保有数がわかり、売買も市場を通じて瞬時に成立します。非上場の株券不発行は、会社が自ら(または名簿管理人を通じて)名簿を直接管理する点が異なります。いずれも「紙に頼らない」点は同じですが、運営主体と実務の流れが違う、という理解で十分です。

譲渡制限株式との関係

非上場企業では、第三者への自由な売買を制限する「譲渡制限株式」を採用することが多く、これと株券不発行は相性が良いです。譲渡のたびに会社の承認手続きを経て、承認後に名義書換を行います。紙の株券がないため、承認書と名義書換の流れがシンプルで、社内統制もしやすくなります。

活用シーンの具体例

  • スタートアップの組織再編:新規投資の受け入れやストックオプションの行使後も、名簿で瞬時に反映できます。
  • ファミリービジネスの承継:相続・贈与の際、株券再発行の手間がなく、名義書換と相続書類の確認に集中できます。
  • 社内持株会・ESOP:少額・多頻度の移転でも、書面と名簿の運用で安全・低コストに回せます。
  • M&A・事業承継のデューデリジェンス:株主名簿と取引記録を提示すれば、権利関係の確認がスムーズです。
  • コンプライアンス強化:配当や議決権の対象者を基準日と名簿で一貫管理し、通知漏れや誤配を防止できます。

このように、株券不発行制度は「紙からの解放」だけでなく、意思決定や資本政策をスピーディーに回すための土台になります。名簿運用のルールさえ固めれば、会社の成長局面でも柔軟に対応できるのが最大の強みです。

最後にまとめると、株券不発行制度は、株主の権利を確実に守りながらも、紙の負担とリスクを取り除く現代的な仕組みです。導入・運用のキモは、定款の明確化、名簿の正確性、そして証跡の一元管理。ここさえ押さえておけば、日々の実務はむしろシンプルになり、会社と株主の双方にメリットが生まれます。これから制度を見直す会社は、現状の定款と名簿の運用状況を点検し、必要に応じて専門家と相談のうえ、段取りよく移行を進めていきましょう。

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