EVA(経済的付加価値)とは:資本コストを超えて稼ぐ力を可視化する経営指標

EVA(Economic Value Added、経済的付加価値)は、企業が投下した資本に対して、要求される資本コストを超える利益を生み出しているかを測る指標です。言い換えると、EVAは「投資家が期待する最低限のリターン(資本コスト)を払い終えた後に、どれだけの真の価値が残ったか」を示します。資本が希少な経営資源である以上、単純な利益ではなく、資本コストを考慮した利益創出力を測ることが重要になります。
EVAは1990年代以降、株主価値経営の潮流とともに広まり、現在では企業価値評価、事業ポートフォリオ管理、経営陣のインセンティブ設計、内部管理会計のKPIとして幅広く活用されています。ROEや営業利益だけでは見えない「資本効率」と「価値創造」を結びつけ、短期の利益偏重や過剰投資・過少投資の歪みを是正することが期待されます。
EVAの基本と定義:なぜ今も有効な指標なのか
EVAの定義はシンプルです。EVA = NOPAT − 投下資本 × WACC。ここで、NOPATは税引後営業利益(Net Operating Profit After Tax)、投下資本は事業に投入されている運転資本と固定資産などの総額、WACCは加重平均資本コストです。EVAがプラスであれば、企業は投資家が要求するリターンを超える価値を生んでおり、マイナスであれば価値を毀損していることを意味します。
直観的に理解するには、EVAを「利回りと資本コストの差」による価値創造として捉えるのが有効です。EVA =(ROIC − WACC)× 投下資本。ここでROICは投下資本利益率です。ROICがWACCを上回っているほど、また投下資本が大きいほど、価値創造の余地は大きくなります。この差の積み上げが長期の企業価値(株主価値)を押し上げます。
EVAと企業価値の理論的なつながり
企業価値は「将来にわたって期待されるEVAの現在価値の総和」として表現できます。これは残余利益モデルの一形態であり、DCF(割引キャッシュフロー)と整合的です。将来のEVAを増やす施策(ROICの改善、WACCの低減、適切な資本配分)は、株主価値の増加に直結します。短期の利益最大化が長期価値と乖離しうるのに対し、EVAは原理的に長期価値と整合するのが強みです。
簡易例
投下資本が1,000億円、NOPATが120億円、WACCが8%の場合、EVAは120億円 − 1,000億円 × 8% = 40億円。ROICは12%なので、(12% − 8%)× 1,000億円 = 40億円と一致します。EVAがプラス40億円ということは、資本コストを支払ったあとに40億円の価値を創出していることを意味します。
EVAの計算式と主要コンポーネント:NOPAT・投下資本・WACCを深掘り
NOPAT(税引後営業利益)の考え方
NOPATは本業の収益力を税引後ベースで表したものです。財務活動や一過性要因のノイズを排除するため、以下のような調整が行われます。
- 営業外損益、特別損益、評価損益などの非経常項目を除外
- のれん償却(基準による)やIFRSの減損影響の扱いを統一
- 研究開発費を資本化し、償却へ振り替える等の管理会計的調整
- オペレーティングリースの資本化相当調整
- 実効税率の平準化(税効果の一時差異を均す)
投下資本(Invested Capital)の捉え方
投下資本は、営業資産から営業負債を差し引いた純営業資本に、固定資産(使用中の有形・無形)を加えたものが基礎です。過剰な現金・有価証券、持分法投資など非営業性資産は原則として除外し、本業で価値創出に実際に使われる資本にフォーカスします。
- 運転資本(売上債権+棚卸資産 − 仕入債務)の最適化はEVA改善の近道
- 建設仮勘定や休眠資産は厳格にモニタリングし、不要資産は縮減
- 買収で増えた無形資産・のれんは、償却・減損方針と合わせて管理
WACC(加重平均資本コスト)の推定
WACCは、自己資本コストと負債コストを資本構成比で加重した平均です。自己資本コストは一般にCAPMで推計(無リスク利子率+ベータ×株式リスクプレミアム)。負債コストは税引後ベース(負債コスト×(1 − 税率))で評価します。業界ベータ、国別リスク、為替や金利環境の変化を反映し、定期的に見直すことが重要です。
計算上の落とし穴
- ベータの推定期間・頻度で自己資本コストが大きくぶれる
- 資本構成は目標構成で評価しないと景気循環に左右されやすい
- インフレ期は名目・実質の混在でEVAが歪むため、整合的な前提が必要
企業価値との関係と他指標比較:EVAを軸にした意思決定
EVAとMVA、DCFの整合性
市場付加価値(MVA)は、株式時価総額と投下資本の差で表され、理論的には将来EVAの現在価値に等しいとされます。したがって、EVAを持続的に積み上げる戦略は、DCFでの企業価値最大化と矛盾しません。NPVがプラスの投資は、将来のEVAをプラスにするからです。
ROE・ROIC・EBITDA・FCFとの違い
- ROE:株主資本の収益性を示すが、レバレッジで見かけ上改善し得る。資本コストを内包しない
- ROIC:事業の資本効率を示すが、資本コストの絶対水準を考慮しない
- EBITDA:キャッシュ創出力の近似だが、資本の対価を含まない
- FCF:企業価値の源泉だが、期間損益や資本コストとの橋渡しが必要
- EVA:資本コスト控除後の価値創出を直接示し、上記指標と補完関係にある
EVAで見抜ける意思決定の質
高い売上成長やEBITDA拡大でも、投下資本の増加に見合わないならEVAは悪化します。逆に、選択と集中で資本を回収し、WACCを下げるだけでもEVAは改善します。価格戦略、顧客セグメントの再設計、在庫回転の改善、不要資産の売却など、EVAは現場の行動に直結する示唆を与えます。
実務での活用法とインセンティブ設計:KPIの連鎖をつくる
経営管理への組み込み
- 経営レベル:中期計画の価値創造目標をEVAベースで設定(EVA、EVAモメンタム、ROIC−WACCのスプレッド)
- 事業レベル:製品ラインや地域別に投下資本を配賦し、EVAを分解管理
- 現場レベル:在庫日数、回収サイト、稼働率などオペレーションKPIとEVAの因果を可視化
投資意思決定と資本配分
新規投資はNPVとEVAの両面で評価します。投資後にROICがWACCを上回るまでの期間(Jカーブ)と、EVAがプラスへ転じるタイミングを事前に設計し、マイルストーンでモニタリングします。撤退や売却の判断にもEVAは有効で、慢性的にマイナスの事業は構造改革、縮小、売却の候補になります。
報酬・インセンティブへの連動
EVAに連動したボーナスは、短期的な利益操作を抑え、長期的な価値創造を促します。ボーナス銀行(複数年の加算・減算で繰延支払い)を導入すると、単年度の外生ショックによる過度な変動を緩和できます。部門間の相互依存を考慮し、共通の資本コスト前提と配賦ルールを整備することが肝要です。
EVAモメンタムの活用
EVAモメンタム(前期比のEVA増加額を売上または投下資本でスケールした指標)は、成長と効率の両立度合いを端的に示します。過度な増資や過剰在庫でEVAを毀損していないか、早期に検知できます。
導入ステップ、ケース、注意点:現場で機能させるために
導入ステップ
- 現状診断:ROIC、WACC、投下資本の見える化。主要事業のスプレッド(ROIC−WACC)を確認
- 定義と調整の設計:NOPAT、投下資本、非営業項目の扱い、R&Dやリースの調整方針を明文化
- データ基盤:会計データと管理会計の統合。月次EVAの試算と品目・顧客別の配賦ルール整備
- KPIカスケード:経営のEVA目標を、現場の在庫回転、価格・ミックス、設備稼働等に落とし込む
- 運用と見直し:四半期ごとにWACCと仮説を更新。EVA改善施策の効果検証と学習ループを構築
数値シミュレーション
ある事業が投下資本800億円、WACC7.5%、NOPATは初年度60億円、翌年度70億円とします。初年度EVAは60 − 800×7.5% = 0億円で均衡。翌年度は70 − 800×7.5% = 10億円に改善。改善のドライバーを分解すると、価格改定と歩留まり改善でNOPAT+8億円、在庫圧縮で投下資本−50億円(資本コスト減3.75億円相当)、販管費効率化で+6億円などが寄与。EVAは売上拡大だけでなく、資本の質の改善でも伸ばせることがわかります。
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