ROEとROICは何が違う?投資と経営で使い分けるための徹底解説

株の用語
2026.01.14
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目次

ROEとROICは、企業の「稼ぐ力」を測る代表的な指標です。どちらも資本効率を示しますが、見ている資本の範囲や利益の定義が異なるため、同じ会社でも数値と意味合いが変わります。投資家が成長性や株主還元の持続性を見極めるとき、また経営陣が事業配分や投資判断を下すとき、この違いを正しく理解しているかどうかで結論が大きく分かれます。本記事では、ROEとROICの定義、計算式、違い、使い分け、目安、読み解き方までを丁寧に整理し、実務で迷わないための視点を提供します。

先に結論をまとめると、ROEは「株主が拠出した自己資本に対してどれだけ利益を上げたか」を映し、レバレッジ(負債)や自己株式、配当などの資本政策の影響を強く受けます。一方、ROICは「事業運営に使っている計測可能な資本(投下資本)に対してどれだけ税後の営業利益を生み出したか」を表し、資本政策よりも事業そのものの収益性と運転効率に焦点が当たります。この違いを起点に、双方の指標を組み合わせて解釈することが最良のアプローチです。

ROEとROICの基本と計算式

ROEとは何か:株主資本の稼ぐ力

ROE(Return on Equity)は、株主資本利益率のことで、式は「ROE=当期純利益÷自己資本(期中平均)」です。自己資本は、株主が拠出した資金と過去の利益の蓄積から構成されます。例えば同じ純利益でも、自己資本が小さいほどROEは高くなります。ここが資本政策の影響を受けやすいポイントで、自己株式取得や高配当で自己資本を圧縮するとROEは見かけ上改善します。逆に、大型増資を行うと短期的にROEは低下しやすくなります。

ROEのブレイクダウン(デュポン的な見方)

実務では、ROEを「利益率×回転率×レバレッジ」に分解して考えます。概念的には、ROE=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)。利益率はどれだけ儲かるか、回転率は資産をどれだけ回すか、レバレッジはどれだけ借入等で自己資本を効率化するかを示します。ROEだけを単体で眺めるのではなく、どの要因が引き上げているのかを合わせて確認すると、質の高い判断が可能になります。

ROICとは何か:事業に投じた資本の稼ぐ力

ROIC(Return on Invested Capital)は、投下資本利益率のことで、式は「ROIC=NOPAT(税引後営業利益)÷投下資本(期中平均)」が一般的です。NOPATは本業の利益から税金相当を差し引いたもので、財務活動の影響(利息・持分変動等)を除いた事業の純粋な稼ぐ力を示します。投下資本は、運転資本(売上債権+在庫-仕入債務)と固定資産、のれん等の無形資産など、事業に使われている資産から不要な現金や余剰投資を除いたものが目安です。

ROICの実務計測上のポイント

ROICは、事業の成果(税後営業利益)と、それを生むために縛られている資本(投下資本)を対応させます。設備投資やM&Aでのれんが増えると投下資本が膨らみ、ROICは低下しやすくなります。逆に、在庫や売上債権の回転を高めると投下資本が減り、同じ利益でもROICが上がります。つまりROICは「運用効率」と「固定資産の生産性」に敏感な指標です。営業の現場改善と財務の橋渡しを行えるのが強みと言えます。

ROEとROICは何が違うのか:4つの視点で比較

2つの指標は似ているようで、評価する対象とドライバーが異なります。次の4視点を押さえると、数字の動き方が腑に落ちます。

  • 分母の範囲:ROEは自己資本、ROICは事業に拘束された投下資本を対象とする
  • 負債の影響:ROEはレバレッジで上がりやすいが、ROICは事業効率が伴わなければ上がらない
  • 利益の定義:ROEは当期純利益、ROICはNOPAT(税引後営業利益)で財務要素を排除
  • 資本政策と投資の感度:ROEは配当・自社株買いで変動、ROICは設備投資・在庫回転で変動

まず分母の違いです。ROEは株主の取り分に対する効率を測るため、自己資本の多寡が直撃します。資本を薄くすれば効率は上がります。一方ROICは、事業に縛られている資本に対して効率を測るため、負債を通じたレバレッジではなく、売上債権・在庫・固定資産などの運用実態がカギになります。ここが「事業の質」を見抜く上での差となります。

次に利益の定義です。ROEの分子である当期純利益は、営業外収益や特別損益、金融費用、持分法等の影響を受けます。ROICの分子であるNOPATは営業利益ベースで計り、財務要因を外すことで事業そのものの稼ぐ力を抽出します。投資判断や事業評価では、財務政策によるノイズを避けたい場面が多いため、ROICの方が素直な比較軸になりやすいのです。

また、資本政策と投資の感度にも違いがあります。ROEは配当や自社株買いの実施で高まりやすく、短期的な改善が可能です。対してROICは、在庫圧縮や価格交渉力の向上、ムダな設備の撤去、価格改定、サービス設計の見直しなど、現場の積み上げでじわじわ改善する性質があります。したがって、短期はROE、持続的改善はROICと言い換えることもできます。

最後に、のれんやIFRSと日本基準など会計の差異も、両者に異なる影響を与えます。のれんの償却の有無や減損タイミングが利益と投下資本の両方を動かし、計測値に歪みを生む可能性があります。分析では、平均値(期中平均)の使用や、非経常項目の調整、事業セグメント別の分解など、定義のブレを減らす工夫が重要です。

投資家・経営者の使い分けと目安、WACCとの関係

投資家の立場では、ROEは株主に帰属する利益の効率を測るため、配当余力、自己株式取得の持続性、資本政策の巧拙をみるのに向いています。特に自己資本が厚くキャッシュリッチな企業で、ROEの改善余地を探すのは有効です。一方、ROICは事業投資の質を測るため、成長投資に資金を投じる企業で「投資が価値創造につながっているか」を見極めるのに適しています。

経営の立場では、投資判断のハードルとしてROICと資本コスト(WACC)を比べるのが定石です。一般に「ROIC>WACC」であれば価値創造、「ROIC<WACC」であれば価値毀損のサインと解釈されます。WACCは自己資本コストと負債コストの加重平均で、景気や金利、リスクの変化で動きます。したがって、ROICの改善と同時に、ビジネスのリスクプロファイルを下げる努力(収益の安定性、顧客基盤の強化、価格決定力の向上)も価値創造に直結します。

目安については業種やビジネスモデルで大きく異なる点に注意が必要です。資産が軽いソフトウェアやプラットフォーム企業はROICが高くなりやすく、重厚長大型の製造やインフラは投下資本が大きいためROICのハードルが相対的に低く設定されがちです。ROEも同様に、資本集約度やレバレッジ、ステージ(成長・成熟・再編)で水準が変わります。単一の数値で優劣を決めるのではなく、同業他社、地域、景気局面をそろえた相対比較で判断しましょう。

  • 短期の株主還元や資本政策の巧拙を見るならROE、事業の持続的な稼ぐ力と投資の質を見るならROIC
  • 投資判断は「ROICとWACCの差(スプレッド)」、成長性は「スプレッド×成長率」で企業価値の拡大度合いを把握
  • 業種の資本集約度と会計方針の違いをそろえ、同業内の相対比較で評価する

なお、ROEは株式市場との親和性が高く、企業の資本効率改善を促すKPIとして国際的にも広く使われています。ROICは事業責任者の運転改善や投資アロケーションのKPIとして有効で、セグメント別、プロジェクト別に落とし込める点が実務で評価されています。両者を「外の目線(株主)」「中の目線(事業)」として補完的に使うと、評価のブレが少なくなります。

読み解き方と改善アクション:ケースで学ぶ

数値の裏側を読む:高ROE・低ROIC、低ROE・高ROIC

高ROEだがROICが低い会社は、負債や自己株式取得を活用して見かけの効率を高めている可能性があります。短期的には株主に魅力的ですが、事業の稼ぐ力が伴わなければ、金利上昇や景気後退で逆回転するリスクがあります。逆に、ROEが低いのにROICが高い会社は、成長投資の初期段階で自己資本が厚く、レバレッジに頼っていないだけかもしれません。時間の経過とともに投下資本の回収が進めば、ROEも追随して改善する余地があります。

ケース1:在庫の圧縮と価格改定でROICを引き上げる製造業

ある中堅製造業は、売上横ばいでも在庫と売上債権の回転を改善し、運転資本を15%圧縮しました。同時に、コスト増を価格に転嫁し営業利益率を0.8ポイント引き上げました。この結果、分子のNOPATと分母の投下資本の両方が改善し、ROICは5%から8%へ上昇。ROEは自己資本が厚く大きな変化はなかったものの、ROIC改善を継続することで、翌期には営業キャッシュフローが増え、配当の増額と自社株買いが可能となり、結果的にROEも上向きました。事業改善→資本政策の順で効率が高まる好循環の例です。

ケース2:M&A後ののれん増とROEの見かけの改善

サービス企業が大型M&Aでのれんが増え、投下資本が大きく膨らみました。短期的にROICは低下しましたが、買収後の統合作業(重複コスト削減、クロスセル、プライシング)でNOPATが増え、3年でROICはWACCを上回る水準へ回復。一方、自己株式取得で自己資本を圧縮したためROEは早期から改善していました。投資家は、ROEの上昇だけで価値創造と判断せず、ROICがWACCを超えたタイミングを確認することで、M&Aの成否をより精緻に見極められます。

まとめ

ROEは「株主のお金がどれだけ増えたか」を見る数字、ROICは「事業に使っているお金がどれだけ働いているか」を見る数字です。ROEは配当や自社株買いなどの資本政策で動きやすく、短い期間でも改善が出やすい。一方、ROICは在庫や設備の使い方、価格の付け方など、毎日の商売の積み重ねで良くなります。どちらが正しいというより、見る角度が違うだけです。

投資では、ROEの高さだけで判断せず、ROICがきちんと資本コストを上回っているかを確かめると安心です。これが、ROEとROICを味方にするいちばんのコツです。明日からの決算読みや投資判断、現場の改善に、ぜひ役立ててください。

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